或る光栄

In case of die.

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退屈しない人

 リバプールでプレミアを観たボクは、フェリーに乗り込んでマン島に向かった。


 プラムと言う名のパブに落ち着いたのち、TTが開催される街中のコースをクランクベント越しに眺めている。

 その晩ドラフトをしこたま飲んだ。

 長旅の疲れを癒やすかのように、暫時赤子のように深い眠りについた。



 三日後からマン島を回航するヨットレースにクルーとして参戦する。ポジションはメインセイル担当のヘルムスだ。

 

 三日間行われる回航のあいだにボクは、マン島TTのフォーミュラ2クラスにもエントリーする羽目になってしまった。

 バイクショップのマックがマン島に来たなら  と言う事で勝手にエントリーしていたのだ。

 フォーミュラ2と言えばむかしトニー・ラッターが席巻していたクラスなのである。

 いまはその息子が同じく走り回っているが。


 ともあれ、三日後のボクは深い青色が印象的なアイリッシュ海を滑空しながらカタマランに乗り込んでいる。

 その日は吹かない状況が続いて穏やかな日和だった。アメリカスカップのように先を急ぐレースでもない。TTの開催に合わせてかつての支配階級が道楽で走らせているような気楽なものだ。

 スキットルに仕込んでおいたアイラを時々ぐびぐびとやりながらその日は過ぎていった。


 

 パブを引き払って、ダグラスにあるマックのショップに転がり込みレザースーツのフィッティングなどを済ませた。

 明日走らせるバイクはドゥカティのマシンだ。

 マックのモディファイはマン島を走るアマチュアライダーにも定評があり、ボクはマシンの基本的な特性だけ捉えて明日に備えるだけで充分なような気がしていた。


 ショップの裏手にある母屋ではTTの前夜祭よろしくマックの店で100年続いて来たレセプションでごちそうが振る舞われた。


 


 翌日、平原を左手にアイリッシュ海を右手に見ながらのブラインドコーナーでボクは転んでTTの休日の終わりは突然やって来たのだった。

 きれいなスリップダウンだったから、人もマシンのダメージもたいした事は無かった。



 マックの家の離れで連日語らい飲み明かした割に、TTのレースコースにあるアスファルトの染みと、公道をあらわすセンターラインの残像がいつまでも脳裏をよぎり眠れない夜を過ごした。



 翌朝ダグラスの港まで歩いて向かっていたボクは、フットボールコートで遊んでいる子どもたちに混ざってボールを蹴り出した。

 子どもたちがしきりパスを寄こせと声をあげている。瞬間ローファーが脱げて転んだ。


 


 アッと声をあげてびっくりしたところで夢から覚めた。うっすらと鼻のあたまに汗が浮かんでいた。せわしない夢だったな、と思った。

 


 時計はまだ四時前なのに。

 

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