内緒の酒場
店を開いて直ぐの酒場が好きだ。
サラリーマンやニイちゃんネーチャンでごった返す酒場も嫌いじゃないが。それだとちょっと出遅れた感じがして損した気分になる。
開店したての頃の店のあちらこちらがぴかぴかしていて、客をもてなす雰囲気に満ち満ちている。
蝶ネクタイを締め直したり、髪をいじったりする店員さんのなんとも言えない一瞬の緊張感がうれしい。
そこでわたしはかつて親友がしていたように、ゆっくりとドラフトをひとくち。
今朝見た悪夢が毎度毎度のばかばかしい遊戯みたいに消え失せていく。
むかし若い頃は、今しかない と 、
取り憑かれたように桜吹雪を気取ってたオレ。
いまは先はまだまだだと古びたドル札を手にとって眺められるようになった。
ただ人が話すことを、真実だけを語ってくれと願ってやまなかったあの日々。
全部話さないのが大人なんだと考えられるようになった。
酒場。
背伸びして立ち入っていた場所が無理なく過ごせる場所になるまで長い時間だった。
また友としての名を呼べるものと交わしたい。
疼痛に悩まされるboyに一滴の酒を捧げる。