或る光栄

In case of die.

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ビクトリアピークで要人警護する

 ここ一週間と言うもの、本土からの要人が視察に来るとの件で対策会議に追われている


 ボクは香港警察の警備課で働いているから、年に一度有るか無いかの繁忙にちょっとばかり嫌気がさしている

 いまは中国の特別行政区である香港で生まれた身にとって、2000年を前にした返還は迷惑この上ない出来事だった


 そんな忙しい生活の中にありながらマカオのリスボア通いは言うに及ばず、ギアサーキットで開催されるインターナショナルレースにエントリーしてメルコヘアピンを駆け上がったりと私生活は割と充実していたのだった


 雨が降ったり止んだりの3月下旬、本土から来る要人がビクトリアピークに上がりたいとそのスケジュールを香港に発信した


 なんだい、視察って言ったって結局はメシ食って観光地を回る物見遊山じゃないか

 なにが食いたいんだ?広東料理か?四川料理か?それとも客家料理か?香港にはなんでもあるんだぜ


 なんならガイドブックでも送りつけてやろうか?

そんな具合でささくれ立った数日間を過ごしている



 係長から指令があって、ボクはビクトリアピークの要人視察警護にあたる事になった。

 ビクトリアピークには毎日海外からの観光客が鈴なりでピークトラムに列をなしている

 

 要人ならピークトラムに乗せる事なく自動車でピークに行く事は可能なのだが

  いずれにしてもこちらでプランを練って早急に本土の要人サイドと調整する必要がある


 そこまで考えて、警備課から殺人課へ異動願いを出したくなるくらい辟易するよ


 

 要人はかなりの高齢らしく、27度の傾斜を上がっていくトラム行には難色を示して来た

 そのひっくり返りそうな斜面をゆっくり上がっていくのがビクトリアピーク観光の醍醐味だろうが


 要人なんて言ったっててんでわかっちゃねーや


 ボクはその報告をノースポイントの部屋で一杯やりながら爪を切っている時に聞かされた


 むしょうにマンゴーのスイーツが欲しくなって、晩酌を切り上げてセントラルまでの地下鉄に飛び乗っていた

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